契約書は何のために必要なのかを考えたとき、
世の中に氾濫している雛形契約書は全く役に立ちません。
これらの雛形をみるとほぼ書いてあることが共通しています。
当たり前のことですが、
万人の取引に共通することだけを書いているからです。
契約書が必要になるときを想像してみてますと、
相手が意に反する行動をしたとき、
想定外のことが起こったとき、
取引を辞めたくなったとき、
値段を変更したいとき、
というように、
負の事象が発生したときです。
取引が始まると予想もしていなかったことが起こるのは仕方がありません。
でも、それらを全て想定外だったと片付けてしまうのは頂けません。
弁理士の仕事の中心である特許明細書の作成というのがあります。
一番の肝は特許請求の範囲を画定する作業です。
ここで何を行っているかというと、
現在だけではなく将来起こり得るあらゆる侵害態様を想定し、
仮にそのような侵害が発生した場合でも、
権利範囲に含まれるような記載を心がけます。
特許侵害論によれば、
文言侵害でカバーできなければ均等侵害の適用、
直接侵害でカバーできなければ間接侵害の適用により、
想定外の侵害態様に対応できる理論はあります。
しかし弁理士が目指す特許請求の範囲の策定は、
あらゆる侵害態様を文言侵害かつ直接侵害で対応することにあります。
そこに弁理士個々の経験が現れます。
契約書の作成も同じことです。
将来のあらゆる取引態様を想定し、
仮に意に反する事象が発生した場合でも、
契約書に記載した条項で対応することです。
将来のあらゆる取引態様を想定し、
それに対応した契約条項を定めたものが契約書です。
世の中に氾濫する雛形契約書は、
全くその機能を備えていません。
当事者間に疑義が発生した場合は信義則を以て協議する、
という信義則条項をあてにして、
将来の全ての事象に対応するような契約書が存在します。
これはいけません。
信義則条項が機能しないのは、
経験者なら痛いほどわかっていることです。
なぜ〇〇のことを書いていないのか。
今は存在しない当時の担当者を恨んでいるのではないでしょうか。
信義則条項が機能しなければ、
結局、司法の判断に委ねることになるのです。
しかし契約書に書いていないことについて、
司法が判断できることは限られています。
一般法である民法に規定された要件の当てはめを、
個別具体的なビジネスを咀嚼して行います。
判事はもちろんビジネスはわかりません。
代理人はあくまで代理人です。
ビジネスの当事者ではありません。
ビジネスを理解しているのは当事者だけです。
そこで起こったビジネストラブルの解決方法について、
当事者が納得する形で判決に現ることはありません。
あんなに主張したのに判決に反映されていない、
もしかしたら判事は理解していないのではないか、
代理人は何をやっているのだ、
そんな経験をした人もいるでしょう。
ビジネストラブルの解決を、
司法といえでも第三者に委ねてはいけません。
ビジネストラブルは当事者同士で解決するものです。
そのためのツールが契約書です。
○○しなかったら、✗✗を課す。
△△したら、□□を与える。
将来起こり得るあらゆる事象について、
予めやるべきことを決めておくのです。
ビジネスルールを定めておくのです。
ビジネスルールなので、
良いことも悪いこともあります。
良いこと悪いことを賞罰として、
予め合意のもと決めておくのです。
疑義が生じた場合は協議により解決する、
これでは当事者同士はもちろん、
司法でも解決できません。
弁理士 田中智雄
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