ほとんど全ての民生用技術が軍事転用を可能とする技術です。
例えば、センサ技術がミサイル誘導に使用され、デジカメに使われているCCDがスパイ衛星に搭載され、塗装技術がステルス戦闘機に使用されています。
例えば、センサ技術がミサイル誘導に使用され、デジカメに使われているCCDがスパイ衛星に搭載され、塗装技術がステルス戦闘機に使用されています。
今は誰でも使っているカーナビも、当初は測位精度を落として民生用に転用されたものであり、インターネットも、電話回線に代わる通信網として米軍が開発した技術であることは有名です。
日本で開発される先端技術は、民生用として研究開発されているものがほとんどです.
しかし、世界に目を向けると、先端技術は軍事用として開発され、それが民生用に転用されます。
同じ技術でも扱い方が日本と日本以外とでは全く異なります。
秘密特許制度がない日本
その技術を国家単位で管理する特許制度ですが、欧米では秘密特許制度によって保護されています。
秘密特許制度とは、出願された特許を一律に公開する特許制度の例外として存在し、これによって重要な技術を公開による技術漏洩から守っています。
日本では秘密特許制度がありません。
出願した発明は内容は全て18ヶ月後の公開されます。
安全保証貿易管理を厳格化すれば外国特許出願はできなくなる
安全保障貿易管理というシステムが日本を始め世界中で機能しています。
技術を外国に提供するときには許可を得なければ輸出することができません。
安全保障貿易管理の対象はモノだけではなく情報も対象になります。
外国で特許を取得するために技術情報を輸出することも安全保障貿易により制限されるというのが原則です。
例外として、特許を出願するために必要最小限の技術提供であれば許可不要という運用が行われています(貿易外省令第9条第2項第十一号)。
「必要最小限の技術提供」という制限が課せられていても、実務上、これが守られていることはなく、逆に過剰な情報を提供しているのが現状です。
特許出願という目的のためなら、事実上、機微情報が無制限に海外に流出することを許容しているのが現在の特許実務です。
特許出願という目的以外で、海外へ技術を輸出する場合には以下のような制限があります。
海外で製品を製造するために技術情報を提供する場合、無制限に技術情報を提供することが許されているわけではありません。
汎用品を製造するための技術提供であっても、その技術が外為令で規制されている可能性があります。
製品の試験データを海外企業に提供する場合はどうでしょう。
試験データという名称に関係なく、そのデータが製造に使用される場合は規制の対象です。
外国に技術情報を提供する場合だけが規制の対象ではありません。
国内で技術情報を扱う場合でも、情報を提供する相手が非居住者であれば規制の対象です。
研修会やセミナーなど、大勢の人を集めて技術説明会を開催する場合、その中に非居住者が含まれてれば規制の対象です。
海外の子会社の社員に技術を提供する場合、その社員が日本から出向している日本人であっても、非居住者であれば規制の対象です。
このように技術情報を外国へ提供する場合は勿論、国内であっても相手が非居住者の場合や、日本人であって非居住者であれば、無制限に技術情報を提供することはできません。
技術情報の扱いがこれだけ厳格に管理されているなか、「必要最小限の技術提供」という制限が課されていることを理解して特許実務にあたることが必要です。
必要最小限の情報開示を意識すれば、ノウハウを守ることにもつながります。
裁判解決より仲裁解決の方が不利になる
外国企業との取引における紛争解決手段として仲裁解決を選択することが少なくありません。裁判解決に対する仲裁解決のメリットとしては、上訴がないことによる紛争の早期解決の実現、事前合意可能な仲裁地・仲裁人の選択による属地的・属人的な不利益の排除、外国における仲裁判断の国内執行可能性の担保、そして紛争手続きの非公開性による秘密担保を挙げることができます。
上記メリットのうち、仲裁解決を選択する理由として非公開性を挙げる場合、非公開性によるデメリットを知っておく必要があります。
それは仲裁解決を選択した場合は紛争解決のために提供できる資料に制限があるということです。
それは仲裁解決を選択した場合は紛争解決のために提供できる資料に制限があるということです。
審理手続きが公開される裁判所に提出する資料を制限したいという当事者側の事情による場合と異なり、仲裁機関に提出する資料は安全保障貿易管理の観点から制限されることがあります(リスト規制・キャッチオール規制)。
例えば、特許に係る紛争解決の場合、特定技術として外為為替令の別表に定められている技術情報を外国に持ち出すことを原則として禁止しています。
これらの技術情報を外国に持ち出すためには経済産業大臣の許可を得なければなりません。
技術情報を持ち出す場合の許可の例外として、公知を目的とする場合等は許可の例外となります。
例えば外国裁判所において公開されることを目的として特定技術情報を提供する場合は、経済産業大臣の許可は不要という運用が行われています(貿易外省令第9条第2項第9号ホ)。
すべての技術情報について経済産業大臣の許可が得られるわけではなく、仲裁地や仲裁人によっては許可が得られない場合があります。
経済産業大臣の許可は、技術情報を持ち出す国・地域がホワイト国に該当するか否か、仲裁人、さらには相手方当事者が外国ユーザリストに該当するか否かにより判断されます。
仲裁解決は審理が非公開で行われることにメリットがある一方で、非公開で審理手続きが行われるため、上記貿易外省令の適用の対象外となり、技術情報の提供について経済産業大臣の許可が得られないことがあります。
この結果、裁判解決を選択していれば有利に解決することができたであろう紛争が、審理に必要な情報を提供できないがために不利な結果に終わる可能性があることを覚悟しておかなければなりません。
外国企業に特許調査を依頼すると違法
自社の発明の特許性等を調査する場合があります。
技術調査を提供する会社は日本だけではなくインドなど海外にも多くの調査会社があります。
それでは外国の調査会社に技術情報を調査させた場合に法的な問題はないのでしょうか。
該当する法律は貿易外省令第9条第2項です。
いわゆるリスト規制に該当する技術の提供です。
リスト規制に該当する技術を外国へ提供する場合には経済産業大臣の許可を必要とします。
ただしリスト規制に該当する技術情報であっても、公知技術及び将来公知となる技術を提供する場合は例外として許可を必要とすることなく海外の調査会社に技術情報を提供することができます。
我々特許事務所は海外で特許を取得するために海外の特許事務所に技術情報を提供しています。
これは「工業所有権の出願又は登録を行うために、当該出願又は登録に必要な最小限の技術を提供する取引」に該当することを理由に貿易外省令第9条2項11号で経済産業大臣の許可不要という規定に基づくものです。
特許性の調査は、調査後に海外へ特許出願を行う可能性はありますが、特許出願のために技術を提供している訳ではありません。
法律解釈として例外条項は厳格に解釈します。
特許出願を予定している特許調査だから、海外に技術情報を提供しても問題ないという拡大解釈はしない方がよいのかもしれません。
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