パクリ商標が生まれる理由


 

中国では、ブランド名を構成する文字や図形の一部を変えたロゴマークを商標登録したり、商品に付けて使用してしまうことが少なくありません.

 

似ているから商標登録できないだろう、と思っていたのに、そのロゴマークが実際には商標登録されてしまった.似ているから商標権の効力が及ぶはずだ、と思っていたのに、そのロゴマークが実際には似ていないと判断されてしまった.

 

このようなことは、商標の現場では決して珍しくはありません.

 

商標法には、登録商標と同じロゴマークだけではなく、登録商標と似ているロゴマークも他社が登録したり使用したりすることを規制するルールがあります.

しかし、商標法で規定している「同じ」と「似ている」とでは、判断の難易度が全く異なります.

登録商標と同じである、という判断をすることは簡単でも、登録商標と似ていると判断することは簡単なことではありません.

 

登録商標と同じという判断は客観的です.

だれが判断しても同じという判断をすることができます.

 

ところが登録商標と似ているという判断は主観的です.

ある人は登録商標と似ているという判断をしても、別のある人は登録商標と似ていないと判断するかもしれません.

 

日本では登録商標と似ていると判断する人が多くても、中国では登録商標と似ていないと判断する人が多いかもしれません.

 

大事なブランドを、このような曖昧で主観的な判断に委ねておくことはとても危険です.

 

登録商標と似ているという主観的な判断に委ねるのではなく、登録商標と同じという客観的な判断をして貰うことを考える必要があります.

 

「N高」だけでは不十分、「A高」から「Z高」まで商標登録している

登録商標と似ているロゴマークも商標登録しておき、本命の登録商標を包囲して本命の登録商標を防衛するという方法があります.

 

インターネットの世界では、ブランド保護のために、複数のドメインを一括登録することが行われています.

 

例えば、sonyというブランドを含むドメインを取得する場合、sony.comだけではなく、sony.jpやsony.orgなどのドメインも登録しておき、他社がsonyを含むドメインを取得できないようにしておきます.

 

商標登録の場合も、sonyというロゴマークの商標登録だけではなく、sonny、soney、sonieというように、sonyと似ているロゴマークの商標も登録しておき、他社がsonyに似ているロゴマークの商標を登録したり使用できないようにしています.


 

通信制高校で有名な「N高」に至っては、「A高」から「Z高」までの26文字について商標登録をするという念の入れようです.


 

商標のトラブルは、似ているかどうかの判断で解釈が分かれることが原因です.

似ているという判断の余地を作らないことがトラブルを未然に防ぐ方法なのです.

 

見た目が似ているからと言って商標権を侵害するとは限らない

商標が類似するかどうかを判断することは、商品の出所を混同するかどうか、を判断することです.

例えば、AAというネーミングの牛乳と、BBというネーミングの牛乳をスーパーの店頭に並べたとします.

AAというネーミングの牛乳を買いに来た人が、間違ってBBというネーミングの牛乳を買ってしまうほどに、AAとBBが似ていると、2つの商標は類似する、と判断します.

 

商品の出所を混同するかどうかを判断するためには、牛乳の例のように、実際に、対比される商標をつけた2つの商品を、それぞれスーパーのような取引の現場においてみないと分かりません.

 

それでは面倒なので、出所を混同するかどうかを、形式的に判断できる基準を作っています.

対比される商標の「外観・称呼・観念」が類似する場合に、出所を混同すると、判断する方法です.

この方法によれば、実際に、商品を取引の現場におかなくても、形式的に「出所混同」を判断することができます.

 

ただし、外観・称呼・観念の類似で出所混同を判断する方法は、あくまで形式的に過ぎません.

したがって、仮に外観等が似ていても、実際の取引の現場では、出所混同しない、ということも十分にあり得ます.

 

出所混同しなければ、商標が類似する、と判断することはできないので、商標権を侵害する、ことにはなりません.

 

商標が有名になると類似範囲は狭くなる

商標の周知著名度が高くなると、商標の類似範囲が拡大していく、と考える方が多いと思います.

その結果、周知著名商標に似ている商標がついた商品は、全て周知著名商標がついた商品と出所の混同が生じる、と考えます.

 

ところが、実際には、商標の周知著名程度が高くなると、商標の類似範囲が狭くなる、という不思議な現象が起こります.

 

商標が余りに周知著名になってしまうと、人は商標の細部まで正確に記憶します.

その結果、商標の細部の少しの違いにも気づいてしまい、2つの商標が別の商標だと識別できてしまいます.

 

丁度、宝石鑑定士が、兎の毛程の違いをも識別できるのに似ています.

宝石鑑定士は、常にホンモノに接しいるため、少しの違いでも識別できる目利き力を身につけています.

 

商標が有名になればなるほど、たとえ「外観・称呼・観念」が類似していても、実際の取引の現場では商品の出所の混同を生じない、という現象が起こります.

 

本来であれば周知著名度が高い商標の保護範囲を拡大したいところですが、「出所混同」に拘っている限り、周知著名商標の保護範囲を拡大することは難しくなります.

 

韓国の雑貨店「ダサソー」と100円ショップの「ダイソー」

一審ではダイソー側の主張は認められず敗訴しましたが、高裁ではダイソー側の主張が認められました.

 

「ダサソー」と「ダイソー」に接した消費者が2つの商標を混同するのかどうか.

「ダイソー」という雑貨店で買い物をするつもりの消費者が、「ダサソー」という店舗の看板をみたときに、「ダイソー」と間違えて、「ダサソー」という雑貨店で買い物をする可能性はあるのかどうか.

 

「ダイソー」の周知性が高いほど、消費者が「ダイソー」と「ダサソー」を混同する可能性は低くなります.

 

日本では「ダイソー」の周知性はかなり高いので、「ダイソー」と「ダサソー」を混同する可能性は低くなります.

 

韓国において、「ダイソー」がどの程度、周知されているかは分かりませんが、日本ほど周知性が高くなければ、「ダイソー」と「ダサソー」を混同する可能性は高くなります.

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