知的財産権を利用して現地法人の利益を回収する

現地法人から利益を回収する方法に商標などの知的財産を活用する方法があります.

例えば中国で知的財産権を登録するときに権利の名義を中国国外の事業会社Aにします.

事業会社Aは中国国内の事業会社Bに知的財産権をライセンスします.

 

事業会社Bは事業会社Aからライセンスされた知的財産の使用料を中国国外の事業会社Aに支払います.

中国から国外へ支払うライセンス料については、契約自由の原則に基いて当事者が自由に決めることができます.

 

中国に限らずタイ、ベトナム、インドネシアなどの知的財産権を第三国で統括して管理することもできます.

例えば、シンガポールに知的財産権の管理会社を設置し、アセアン若しくはアジア地域の知的財産権を統括して管理するスキームです.

 

シンガポール・香港の活用

中国の法人から日本の法人へ配当を支払ったときの源泉税率は日中租税条約に基づき10%です.

一方、中国の法人から香港の法人へ配当を支払ったときの源泉税率は中香租税協定に基づき5%です.

その後、香港の法人から日本の法人へ配当を支払ったときの源泉税率は0%です。

 

日本の法人税は、法人税率40%、配当課税5%の場合、2%です.

中国法人から日本法人へ配当するよりも、一度、香港を経由して配当した方が源泉税率が軽減されます.

 

香港に代えてシンガポールにした場合でも理屈は同じです.

中国法人からシンガポール法人へ配当した場合の源泉税率が5%.

シンガポール法人から日本法人へ配当した場合の源泉税率は0%.

 

では香港とシンガポールのどちらに中継拠点を設けるかの1つの判断理由として、香港は特別行政区なのに対してシンガポールは国家ということです.

 

中国側からみれば、本来、源泉税率10%を適用できるはずが、協定または条約のために源泉税率が5%に軽減されてしまうので面白いはずがありません.

中国が協定または条約の内容に反して源泉税率の軽減措置を見直したいと思うのは自然です.

 

中国側が一方的に源泉税率の軽減措置を廃止した場合、香港に対しては協定違反となり、シンガポールに対しては条約違反になります.

特別行政区に対する協定違反よりも、国家に対する条約違反を犯す方がハードルが高いのは明らかです.

 

香港は一国二制度という枠組みのもとで運営されています.

香港を活かすも殺すも中国のさじ加減1つです.

中国の利益に反すると判断されれば香港行政区に適用されている優遇措置はいつ廃止されてもおかしくありません.

 

利益を日本に還元することの意義

現地法人で計上した利益や現地法人からのライセンス料を日本へ還元することの意義を考えてみます.

現地で計上した利益やライセンス料を日本国内で投資したいのであれば日本へ還元する必要があります.

しかし日本で投資する計画がない、または日本以外の国に投資する計画がある場合、現地で計上した利益を日本に還元する理由はあるでしょうか.

 

日本に還元した時点で発生する問題に税金と為替があります.

現地で計上した利益を日本に還元すれば40%の法人税が待っています.

日本に還元した時点で利益が目減りします.

 

一方、日本に還元せずに香港やシンガポールで留保した場合はどうでしょうか.

香港の法人税は16.5%、シンガポールの法人税は17%なので、日本と比較すれば利益の目減りを抑えることができます.

 

さらにシンガポールには各種の優遇制度があるので、優遇制度を利用できれば法人税はさらに軽減されます.

 

為替の観点からは、日本に利益を還元した場合、為替次第ではドルベースで目減りすることがあります.

一方、香港ドルは米ドルに連動させており、シンガポールドルも米ドルを含む外貨に連動させています.

香港ドル、シンガポールドルも米ドルに対する変動は日本円よりも小さいので、ドルベースで目減りするリスクを小さくすることができます.

 

税金や為替変動により利益が目減りするリスクが少ない香港やシンガポールの法人に利益を留保し、日本や日本以外のグループ会社の事業に投資する方が効率的といえます.

 

ただし香港やシンガポールの法人税は現時点で他の国に比べれば低いのですが、この状態が将来も続くとは限りません.

香港やシンガポールに資産が集まることを他の国が快く思っているはずがないからです.

いずれ修正される可能性は十分あります.

 

ひところに比べれば香港の将来性には懐疑的な面もありますが、シンガポールにあってはヒト、モノ、カネが集まり、拠点を置くに相応しい環境を備えた都市であることは間違いありません.

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