不作為のペナルティを書かない契約書は機能しない

契約書に書くべきことは○○をしなかった場合のペナルティを分かりやすく具体的に定めておくことです。

多くの契約書には、○○をしてはならない、という禁止条項は書かれていても、○○をしなかった場合のペナルティ条項が書かれていません。


信義誠実の原則に従い双方が協議するという信義誠実条項を以てペナルティ条項とする人がいますが、トラブルが起きたときに双方が協議して解決に向けて努力するのは当然のことなので、信義誠実条項は単なる標榜条項に過ぎません。


トラブルが起きると協議することすら叶いません。
当事者が双方の主張を言い合うだけで解決に向けた努力を期待する方が非現実的です。

 

不作為のペナルティを分かりやすく書く

ペナルティの内容を分かりやすくして契約を破るという不正を抑止する方法を契約書の作成に取り入れてみるのも一つの手です。


一つの例としてキセル乗車を挙げてみます。
キセル乗車が発覚した場合の違約金が正規運賃の3倍ということはよく知られていることです。

ペナルティの内容を金銭に絡めていること、その金額を3倍という計算しやすい方法で表現することで、不正乗車に対する抑止力になっているようです。



契約書の作成において、契約で定めた約束が守られなかった場合に損害を請求するという損害賠償条項を定めることが少なくありません。

果たしてこのような記載の損害賠償条項が、約束を破ることの抑止力になるでしょうか。


先程の不正乗車の場合と比べると、ペナルティの内容が損害賠償という金銭に絡められていますが、その金額が具体的に表現されていません。
損害は約束が破られたときに発生するため、約束が破られていない契約書を作成する段階では損害額を記載することができないという事情はあります。

 

しかし予め損害額を決めておくという方法もあるのです(民法420条)。

例えば、契約で定めた約束が守られなかった場合は、1000万円を請求する、という損賠賠償条項を予め定めておくことができます。


先程の不正乗車の場合と同じように、契約で定めた約束を守らなかった場合のペナルティの内容が損害賠償という金銭に絡められており、さらに、その金額が1000万円という分かりやすい方法で表現されています。
実際の損害額が1000万円を超える場合もあるので、実務上は、1000万円を下回らないという最低賠償額を定めることになります。


雛形を使うことが多い契約書の文面はどれも同じような曖昧な表現です。
さらに契約を躊躇するような露骨な表現は避けられがちです。
しかし契約書はトラブルがあったときに当事者同士で解決するためのルールを定めたビジネスツールとしての役割があるので、分かりやすく具体的に目立つように書くことが大切です。

 

契約書に書かないことはリスクでしかない

契約内容を当事者の自由自治に委ねて国家は干渉しないという契約自由の原則は世界の共通ルールです。

当事者間で自由にルールを決めたければ契約書に書いておくだけで良いので至極合理的なルールです。

 

大事なことは、契約書に書いてあることは国家は干渉しないが、契約書に書いていないことは国家が干渉するということです。

契約書に書いていないことは、何も決めていない、ということではありません。

契約書で書いていない内容について国家が制定した法律が別途規定していれば、その法律に従わなければなりません。

 

例えば中国企業と日本企業との間で共同開発した発明について中国企業と日本企業の間で特許権を共有している場合、契約書に書くか書かないかで次のようなリスクが発生します。

 

日本の特許法は、共有特許の権利者は他の共有者の同意を得なければ他人に実施許諾することができないことを規定しています(特許法第73条第3項)。

契約書に共有特許権の実施許諾について何も書かなければ特許法73条が適用されます。

 

一方、中国の専利法は、共有特許権の共有者は単独で実施許諾することができることを規定しています(専利法第15条)。

契約書に共有特許権の実施許諾について何も書かれければ専利法第15条が適用されます。

 

同じ共有特許に係るルールでも中国と日本とでは全く違います。

 

契約書に何も書かない場合において、単独で実施許諾したい者は日本の特許法が障害になり目的を果たせません。

お互いの同意を得たうえで実施許諾をしたい者は中国の専利法が障害になり目的を果たせません。

 

契約書を起案するということは契約事項に関して知っておくだけでは足りません。

契約事項に関連する日本そして海外の法律がどのように規定しているかどうかを知らないと、いざ契約を履行しようとしたときに目的を果たすことができません。

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