ものづくり補助金で補助される経費に、特許権・意匠権・商標権などの知的財産権の取得に要する費用が含まれています。
しかし知的財産権は、出願してから登録するまでに各種手続きがあり、さらに出願から登録までに数年がかかることも珍しくありません。
ものづくり補助金の経費対象になるためには、交付決定日から10ヶ月以内の事業実施期間内に発注から支払いまでの手続きを完了させるという時期的要件を満たさねければなりません。したがって知的財産権の取得に際しては、この時期的要件を満たすように手続きを行う必要があります。
特許権と時期的要件
交付決定から10ヶ月以内に特許権を取得するためには、特許出願と同時に出願審査請求を行い、さらに早期審査制度を利用する必要があります。
中国などの海外で特許権を取得する場合も、日本へ出願したらほぼ同時期に対象国に出願し、審査を早める同様な制度を利用します。
意匠権と時期的要件
交付決定から10ヶ月以内に権利を取得するのが最も簡単なのが意匠権です。
2021年現在では、出願から6ヶ月程度で登録査定になります。
仮に拒絶理由が通知された場合でも十分に対応可能です。
海外で意匠権を取得する場合も、中国や欧州など国によっては無審査で権利が取得できる国もあり、短期間で権利を取得することが可能です。
商標権と時期的要件
交付決定から10ヶ月以内に商標権を取得するためには、商標登録出願を行うとともに早期審査を申請する必要があります。
中国などの海外で商標権を取得する場合も、日本の出願とほぼ同時に対象国に出願し、審査を早める制度があれば、それを利用します。
知的財産権等の関連経費は、出願から登録までの間に複数の手続きがあり、その都度、費用が発生する点において、設備投資のような費用発生方法とは異なることを理解しておく必要があります。
ものづくり補助金には意匠権を使う
ものづくり補助金で知的財産権を取得するならまず意匠権を検討してください。
知的財産権と聞いて最初に想起するのは特許権ですが、特許権を取得するためには費用と時間がかかりすぎるというデメリットがあります。
新しく開発した商品が技術に関するものでも、それがプログラムや物質の組成に関するものでなければ、意匠権で保護できる可能性があります。
新しく開発した商品が技術に係るものであっても、その技術を具現化するために商品の外観に構造として表れることが少なくありません。
技術を具現化するために現れた商品の外観について意匠権を取得すれば、間接的に技術を保護していることになります。
意匠権は出願から登録までの費用が特許権の取得に比べて遥かに少なく、また出願から登録までに要する時間も早ければ3ヶ月です。
中国など海外で意匠権を取得する場合でも保護内容を文章で記載した特許のような翻訳が不要なため、海外で意匠権を取得する費用を抑えることができます。
交付決定日前にやっておくこと
ものづくり補助金の補助対象事業の要件は、交付決定日から10ヶ月以内の事業実施期間内に発注から支払等のすべての事業手続きが完了することです。
ところが特許権・意匠権などの知的財産権取得に係る事業手続きは先出願主義を採用しています。
かりに交付決定日前にすでに新商品が完成していても、特許庁に対して出願手続きをしない限り、後に完成し先に出願した他人の手続きに対して劣後することになります。
知的財産権取得に係る経費をものづくり補助金の経費対象に含めたい、しかし新商品がすでに完成しているので先願権を確保したいという場合はどうすれば良いかについて考えてみます。
優先権制度を使う
特許または実用新案に対して認められている制度に国内優先権制度があります。
これは先の特許出願または実用新案登録出願の出願後1年以内に、その先の出願に基づいて新たな特許出願または実用新案登録出願をすることを認める制度です。
ものづくり補助金との関係においては、新商品が完成したらまずは特許出願または実用新案登録出願を行います。
つぎに交付決定後、すでに行った交付決定前の特許出願または実用新案登録出願に基づいて新たな特許出願または実用新案登録出願を行います。
出願手続きを交付決定前と交付決定後に2回行うことになりますが、先願権の確保と、ものづくり補助金の経費対象化の双方を満足することが可能です。
出願の変更を行う
特許出願と実用新案登録出願との間の出願変更、特許出願と意匠登録出願との間の出願変更、実用新案登録出願と意匠登録出願との間の出願変更が認められています。
ものづくり補助金との関係においては、新商品が完成したらまずは特許、実用新案登録または意匠登録のいずれかの出願形式で出願手続きを行います。
つぎに交付決定後、すでに行った交付決定前の特許出願、実用新案登録出願または意匠登録出願の変更を行います。
関連意匠制度を利用する
商品開発において、一つのデザインコンセプトから多数のバリエーションのデザインが生まれることが少なくありません。
ものづくり補助金との関係においては、先に開発した商品のデザインについて意匠登録出願を行います。
つぎに交付決定後、すでに出願した交付決定前の意匠を本意匠として関連意匠として新たな意匠登録出願を行います。
この方法によれば、交付決定前にすでに完成した商品のデザインを早期に保護することができ、またバリエーションのデザインについては関連意匠として新たに意匠登録出願として経費補助の対象になります。
技術導入費の留意点
補助金対象事業を遂行するために必要な特許権・意匠権などの導入方法には、権利を所有する他社から譲渡してもらう方法と、ライセンスを取得する方法があります。
ライセンス取得による技術導入方法を選択する場合、ライセンスフィーの支払い方法を工夫する必要があります。
ものづくり補助金の経費対象は、交付決定日から10ヶ月以内の事業実施期間に支払いが完了した手続きであるのに対し、ライセンス取得に係る費用は、ライセンス契約締結時に支払うイニシャルフィーの他に、ライセンス契約満了日までに支払い続けるランニングフィーが存在するからです。
ライセンス取得に係る費用をどのように定めるかについては契約当事者が自由に決定することができるので、ものづくり補助金の経費対象にライセンス費用を含ませる場合は、イニシャルフィーの割合を多くし、ランニングフィーの割合を少なくする工夫が必要です。
理想的には、将来のランニングフィーを含めて全てイニシャルフィーに含ませることです。
システム設計と著作権
ものづくり補助金の経費の補助対象には、新商品・サービスの開発に必要な設計等を外注した場合の外注費が含まれます。
設計等を外注する場合には取引契約を締結しますが、外注する設計等にプログラム等の著作物が含まれている場合は要注意です。
プログラム等を創作した場合の著作権の帰属は発注先ではなくプログラマに帰属します。
したがって取引契約では著作権の譲渡を規定するのですが、著作権特有のルールがあります。
著作権には譲渡可能な著作権と譲渡できない人格権という2つの権利があります。
譲渡契約において権利の譲渡について規定しても、人格権の譲渡が不可能である以上、後日、プログラムの創作者が人格権に基づいて権利行使をするかもしれません。
人格権に基づく権利行使を防ぐために、著作権の譲渡契約では、人格権の不行使について規定しておかなければなりません。
0コメント