目で見える特許発明が一番強い

あるモノが特許権を侵害するかどうかを判断するとき、そのモノと特許権とを対比するのであるが、そのモノと特許権とを直接対比することはできない。

特許発明は特許請求の範囲に記載された文言で表現されているから、対比ができるように比較対象となるモノを特許請求の範囲の記載に準じた文言に言い換えなければならない。

特許請求の範囲の記載が形状や構造の記載で特定されていれば、比較対象となるモノも形状や構造を用いた表現で言い換えることになるし、機能表現で特定されていれば、比較対象となるモノも機能表現で言い換えることになる。

比較対象であるモノを形状や構造を用いた表現に言い換えることは、特に難しいものではない。

なぜなら比較対象となるモノを観察すれば形状や構造が確認できるからである。

ところが比較対象であるモノを機能表現で言い換えるとなると、形状や構造の場合と違って簡単ではない。

なぜなら比較対象を観察しても、その機能を備えているかどうかを直接確認できないからである。

比較対象がその機能を備えているかどうかは、例えば、電気分野であれば回路に通電を行い波形観察をしてそのような機能が備わっているかどうかを確認しなければならない。

またIT分野であればプログラムを実行させてそのような機能が備わっているかを確認しなければならない。

特許請求の範囲の記載に機能表現が認められるようになってから、多くの特許発明が機能で表現されるようになったが、機能表現が認められなかったときに比べると、対比という観点ではとても面倒である。

形状や構造で特定した目で見える特許発明が一番強いのである。

ところで一部の特許発明をみると、そこに用途表現が盛り込まれていることがある。

用途による特定は一部の化学分野でよく使われるが、それ以外の分野において、用途の特定は、それが形状・構造・機能に現れるなら、形状等により用途を間接的に特定する以外、用途限定をする意味がない。

なぜ用途表現を記載したかは定かではないが、先行技術との差異を明確にするためや発明を特定するために必須であったかと言えば、そのようなことはなく、単に分かりやすいからという理由で記載されているに過ぎないであろう。

用途表現があったからと言って、それが理由で発明不明瞭ということにでもならなければ特許審査に影響がなく、したがって用途発明が記載された特許発明が出来上がることになる。

用途限定をしなくても特許審査に影響がないにもかかわらず、特許発明に用途が記載されていれば、比較対象となるモノに、そのような用途が存在するかどうかを説明しなければならない。

しかしである。

あるモノに用途があるかどうかを客観的に説明するのは意外と難しい。

そのモノの説明書に用途が記載されていれば、その説明書が証拠になるが、そうでなければ、その用途があることをどのように説明するのだろうということになる。

あるモノをどのような用途に使うかは使う人の自由である。

例えば、重さがあれば、漬物石にも使えるし、文鎮にも使える。

比較対象となるモノに用途を証明するための客観的な資料がなかった場合、その用途があることをどのように説明するのだろう。

重さがあれば、漬物石にも文鎮にも使えるの如く、全てのモノにはあらゆる用途があるという乱暴な説明で足りるのだろうか。

特許を取得するということだけを見ていると、その特許発明が侵害判断でどのように機能するのかということを見失うことになる。

特許は取れても権利行使に苦労するという特許発明は意外と多い。

権利行使を容易にするための手段として均等侵害というものが認められるようになって久しい。

しかし、弁理士なら文言侵害で勝負できる特許発明を目指すべきあり、均等侵害に頼らなければならないということ自体、将来の侵害態様に対する想像力が足りなかった証であり褒められることではない。

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