知的財産権が侵害された場合は直接相手と交渉して解決することの他に裁判所の力を借りて解決する方法があります.
裁判所による司法救済には刑事と民事があります.
単純に相手を罰するのが目的であれば刑事が最も簡単です.
刑事と聞くとハードルが高いと思うかもしれません.
しかし権利者に必要な手続きは告訴だけです.
告訴が受理されれば、あとは捜査機関が捜査・証拠保全・起訴という手続きを行ってくれます.
司法救済の目的が賠償金を取ることならば民事救済を選びます.
民事救済の場合は刑事と違って特許権侵害を受けているという事実や権利侵害によって生じた損害の額などをすべて権利者自身が立証しなくてはなりません.
裁判を維持していくためにも相当な費用がかかります.
金銭賠償という目的を達成しても裁判費用などを考えると当初の目的が実現できたという実感がわかないかもしれません.
司法救済以外にも調停や仲裁を利用する方法、さらには行政を利用する方法もあります.
民事はコスパが悪い
特許権侵害に限っていえば、告訴が受理されることはまずありません.
制度上は可能でも特許権侵害という特殊な事件は刑事事件に馴染まないからです.
何が特殊かと言えば、特許権は無効になるからです.
せっかく起訴しても公判中に権利が突然なくなるような事件は検察も慎重にならざるを得ません.
結局、特許権侵害は民事に委ねるしかありません.
ところが民事は原告の負担が大きいことがネックになります.
原告が自分に有利な判決を得るための裁判なので主張立証責任は原告にあります.
主張はしても立証できなければ、例え権利侵害があっても原告の請求が認められることはありません.
さらに一審判決に至るだけでも数年という時間がかかってしまいます.
特許権侵害を審理する裁判所は、まず権利侵害の有無を審理し、侵害の心証を得た場合に損害の有無を審理するという二段階審理方式を採用します.
標準的な侵害論の審理は、原告が訴状を陳述し、被告が答弁書を陳述して第1回目の口頭弁論が終了します.
第1回口頭弁論が終了した後、5回程度の弁論準備手続を行うことを想定しています.
単純に各期日の間隔が1月と仮定すると、侵害論の審理だけで最低半年を要することになります(実際には代理人の期日の調整や専門委員が介入するため、1年程度は最低必要です).
侵害の心証を得て、次に損害論の審理に入ります。
原告主張の損害額について、当然に被告が認否反論するので、原告の反論及び被告の再反論のための期日が数回設けられます.
原告主張の損害額について、当然に被告が認否反論するので、原告の反論及び被告の再反論のための期日が数回設けられます.
裁判所が最終的な損害額について心証を形成するまでに、また1年程度がかかるわけです.
侵害論及びこれに続く損害論を審理し弁論準備手続を終結したあと、判決言渡しではなく、場合によっては和解が勧告される場合もあります.
権利侵害を司法に委ねると第一審だけで3年、4年という時間は避けて通れません.
控訴すればさらに時間が必要です.
控訴すればさらに時間が必要です.
これだけの時間と労力が必要な司法解決は原告である権利者にとっても酷であると言わざるを得ません.
日本では損害額の認定は実損の範囲に限るため、相手方に故意や悪意があるような場合でも米国のような懲罰賠償を求めることはできません.
損害賠償を求める代わりに差止めのみを求める場合もありますが、その場合でも侵害論の審理は必要です.
税関の侵害判断は一ヶ月以内
翻って行政による水際制度を利用すれば侵害論の審理に相当する認定手続は1回だけです.
侵害・非侵害の心証を得るまでに数年を要していた司法に比べ、税関の輸入差止めを利用すれば認定手続開始から1ヶ月以内に侵害該否が判断されます.
日本国内で流通する多くの製品が海外で製造されている現在、権利侵害品を税関で阻止することが最も直接的かつ効果的な手段です.
0コメント